避難所に生まれた花の絆

Part1:いけ替えの準備

3月11日の地震で被災された方々の東京での避難先のひとつとなった、旧赤坂プリンスホテル。そのロビーの共用空間で6月末の閉所までの一ヶ月間、草月流有志による花のボランティアが行われました。
震災直後から、各地のいけばな人は「自分たちになにができるか」ということを真剣に考え、行動に移す準備に取りかかっていたようです。
避難所に花があるだけでどれだけ癒されるか!?
しかしその実行には認可の手続きや持続可能なプランが不可欠です。

今回、花を届けたいという想いが実現したのは、教室仲間と相談する人、家元(勅使河原茜氏»参照)に手紙を書く人、花業界などに花材提供を呼びかける人、組織(草月流東京南支部»参照)に応援を頼む人などそれぞれが自発的に動き出し、一方それにみな積極的に呼応し、専門的立場からバックアップする組織と人、また個人としてボランティアに参加する人などが現れ、まさにタイムリーに発揮されたいけばなネットワーク力の賜物と言えます。
「草月会という団体が動いたことは大きかったのではないでしょうか? 企画書は会から出していただきました。私たち個人では頓挫していたように思います」(発起人の一人・中村美梢さん)

Part2:制作から完成まで

6月8日、いけ替え(東京南支部からは副支部長の望月さんと平林さん、大久保有加さん、中村さんの四名)に同行させていただいた日、入った瞬間のロビーはやや重い雰囲気に包まれていました。
淡々と制作が行われるなか、その空気が一変したのは、避難者の方々が声を掛けてきたときです。
「素敵ねぇ」「うわぁーいい香り」「この花なんて言うの?」……自然と会話が始まり、ロビーが急に明るい雰囲気に包まれだしたのです。近くの職員の方の顔もほころんでいるように見えました。
ロビーとカウンターの作品のほか、テーブルに置く小さな花など、館内すべての花を4人は短時間でてきぱきとリフレッシュ。
「花を通して会話をできたことが大きかったと思います」(大久保さん»参照)。
いけばな人の熱意と現場対応力をもってすれば、ボランティアはもちろん、花と人との交流が生まれる場を作り出せることを今回の事例は如実に語っています。