震災で“待つ”ことの大切さを学ぶ

3月11日の午後、地震が起こったとき、どんな状況で被災されましたか?

3月11日は、お稽古のない日でしたので、主人と二人で家にいました。突然、家ごと揺れ、「これは大きい地震だ」と外に出ました。見上げると、家も電線も大きく波打つような揺れが、15分くらいの間に3回、5分間隔くらいで来ました。
地震が収まり家に入ると、玄関の下駄箱、本棚などが倒れ、いけてあったお花は花器ごと落下し、玄関の床は水浸しになっていました。台所の食器棚の戸が開き、食器類がほとんど壊れて、他の部屋も足の踏み場がない状態でしたが、幸い家自体はほとんど被害を受けずに済みました。また、花器はお稽古用も含め、ガラス花器が1つ、半分に壊れただけで済んだことも奇跡的だったと思います。

その後の原発事故。普段の生活にどんな影響が出て、どんな対応をされてきましたか?

3月中は、放射能が飛んでいるとの警戒の中、再び原子力発電所が爆発するのではないかという不安もあり、毎日毎日が心配の連続でした。
6月末出産予定の娘がおり、里帰り出産か、それとももっと遠い地での出産を考えなければならないのか、4月になっても心は少しも落ち着きませんでした。5月に入り、娘はやはり「里帰り出産」を選択し、帰郷しました。放射能による影響の結果は、数十年後になってからではないと実際のところわからないわけで、見知らぬ土地での出産で抱える大きなストレスとを比較した上での結論でした。
妊娠中は身体を動かした方がよいという医師の指示に従い、マスク、帽子、長袖、サングラスを装着し、なるべく放射線量の少ない場所を探し、散歩していました。私自身も、娘も不安を抱えたままの日々ですが、6月下旬に無事に男児を出産しました。

震災後、いけばなの日常がどう変わりましたか?

私の住む福島県郡山市の震災の被害は大きく、全壊、半壊の家も多く、瓦屋根の家の瓦はほとんどが落ちている有様です。
私が毎週お花をいけに行っていた蕎麦処「くに屋」さんのご自宅も、大きな被害を受けられました。幸いなことにお店は営業できる状態でしたが、お店にお花を飾るまでには至っていません。
私の教室は、ほとんどの方がそのまま続けて通って来てくださっておりますが、中にはお花をいける気持ちにはなかなかなれず、しばらく休んでいた方もいらっしゃいます。その方も、最近、ようやく心の整理がついて、お花をいけ始めました。

(決して安心できる状況ではない)現状を踏まえ、いけばなとどう向き合っていこうと思われますか?

原発事故による放射能の問題は、大きく影響しています。
私自身、野外の花材を家の中に飾るのも、はばかれるのが現状です。福島が「フクシマ」と表記(※注記参照)されている現在、福島県民の「心の復帰/復興」はなかなか簡単には進みません。しかし、「待つ」こと、「時間が人の心を落ち着かせるまで待つ」ことの大切さを今回学びました。
私もいけばなを通じたつながりによって、多くの人からお世話をしていただいたり、励ましをいただきました。そのお陰で、少しずつ心が回復してきたように思います。
いけばなを通じての人のつながりが、どんなに心強いものになるか、今回の震災によって改めてわかりました。今後も心と心の通い合ういけばな人生を歩んでいきたいと思います。

〔※福島のカナ表記について:新聞や雑誌をはじめとする各メディアで、原爆被災地の広島、長崎と同様?に福島も、フクシマとカタカナ表記される状況、さらにはそれ自体を巡る意見も多数出ている。〕

お花

震災直前の3月初旬に「くに屋」を飾った作品
(→画像クリックで拡大写真へ)

Q1 いけばなを始めたのは何歳?

18歳の時から

Q2 なぜ、いけばなに興味を?

子供のころから絵を描くことやものを作る(創る)ことが好きでした。また、庭にある花を摘んで花瓶に挿したりしていました

Q3 プロになろうと思ったのはいつ?

2人いる子供の手が離れた頃から

Q4 その理由やきっかけは?

いけばなは、蕾から満開まで、その経過を毎日見ることが出来ます。また、色々な材料を花材にして、創り出す楽しさを感じた時に、プロを目指そうと思いました

Q5 そのために、どんな練習や努力を?

勅使河原宏先生のテキストに興味を持ち、それを読み込むとともに、郡山市から東京の本部の3.4教室のマスターコースまで徹底的に通い、追求するよう努めました

Q6:家事と仕事と子育ては、どうやりくりを?

夫に家事や子育てを手伝ってもらうことで、お稽古の日をやりくりしました

Q7 今、いちばん誰に感謝?

Q8 三種の神器(今の自分にとって絶対必要な三つ)を挙げるとすれば?

お弟子さん、山、家族

Q9 プロを目指すうえで、とくに役立った情報は?

草月から出版されている本、美術誌、建築誌、美術館探索、山歩きで目にする風景など

Q10:いけばな人(界)に期待したいこと?

日本の伝統文化であるいけばなを、世界の人により一層広めてもらいたい。男女を問わず、心に安らぎを与えるものとして、より多くの人に広めてほしい

Q11:いちばん大きな失敗は?

素材を着色した結果、ごみのように見えてしまったこと

Q12:プロとして自分のもっとも得意なところ?

何でも挑戦してみたいという気持ち

Q13:いけばなを選ばなかったら、どんなこと(仕事)を目指していたか?

何かを創り出す仕事

(写真=菅野草苑)☆関連ページはこちら☆